森に炭を撒いて、山をよみがえらせる

わたしは現在、新潟県の佐渡島で、
枯れかけた木に炭を撒いて森を再生する
「佐渡炭よいプロジェクト」という活動をしています。
 
なぜ、森が枯れているのか。
なぜ、炭を撒くのか。
 
今日はそんなお話を書いていきます。

夏なのに赤く紅葉する山

私は大学を卒業した2001年から、
自然環境NGOや、地方自治体の自然環境調査、
専門学校の非常勤講師などの仕事に携わっていました。
そんな中、新潟県の佐渡島とのご縁ができ、
2007年に移住住しました。
 
そして、
衝撃的な光景を目にしたことがすべての始まりでした。
 
8月の夏の暑さ真っ盛りの時期なのに、
山が紅葉しているのです。
 
 
どうして??
 
いろいろ調べてみると、
ナラの木を枯らす「カシノナガキクイムシ」という虫が増えて、
佐渡の山が毎年枯れているとのこと。
 
これは「ナラ枯れ」という現象だと知りました。
 
 
 
ただ、私は不思議に思いました。
 
その虫は、今急に佐渡に入って来たわけでは無く、
昔から樹木と共存していたはず。
 
どうして今になって急に増えたのだろう?
 
 
そこで、以前から知り合いだった、
群馬県に住む自然環境活動家の方に相談したところ、
 
「大陸からの汚染物質が雨とともに降って、
土壌が酸性化しているので、土壌の微生物が少なく、
木の根っこが弱っている。
そこに虫が来ると、木は抵抗できなくて枯れてしまう。
だから、虫が悪いんじゃなくて、
そもそも、土壌の酸性化が問題なんだ。」
 
「酸性化した土壌には、炭を撒くといいよ」
と教えてもらいました。
 
炭を撒くと良い理由は、主に3つあります。
 
① 炭は化学物質に対して
  非常に強い吸着力があり、
  農薬や大気汚染物質の吸着材として役立つことが分かっています。
 
 
② 炭はアルカリ性の無機物なので、
  植物に有用な微生物にとって快適な住処になります。
 

③ 炭のミクロの孔が表面積を広くし、
  空気や水を多く保てるので、
  樹木の細かい根がよく発達します。

 
 
そして、2009年の10月。
私は半信半疑ながらも、佐渡市の協力を得て、
市営公園の樹木の根元に、炭を撒くことにしました。
 
私に炭を撒くことをアドバイスしてくれた宮下正次さんという方が、
群馬から仲間を連れて、炭を運んで、炭を撒きに来てくれました。
 
佐渡島の仲間も集まり、
20人ほどで市営公園の30本のコナラに、
約230kgの炭を撒きました。
 
 
 
わたしは、この日、今までに感じたことのないほどの充実感があり、
「あぁ、私はこういう活動をしたかったんだ。
 大量に枯れた山に比べたら、ほんのわずかの面積だけど、
 それでも、仲間とこうして、試行錯誤して一歩を踏み出せたこと。
 私はこういう実感がほしかったんだ」
と、胸に熱くこみあげるものがありました。
 
 
実は、「ナラ枯れの木に炭を撒く」なんていう活動は、
それまで私が東京で仕事をご一緒していた大学の教授や官僚の方々からすれば、
狂気の沙汰でした。
 
科学的にきちんと解明されたわけでは無いし、
国の研究機関では、「ナラ枯れの原因は虫なので、虫を殺菌剤で駆除する。」
あるいは「フェロモンでおびき寄せて、木を枯らさないようにする」
というような研究結果を発表しているのです。
 
地元の新聞に、ナラ枯れに炭を撒く活動を投稿したところ、
新潟県の担当部署の人に呼び出されて、
「私たちと違う見解を勝手に広めるな!」
と怒鳴られたことがありました。
 
また、あまり環境問題に関心のない地元の方々には、
「どうして島の外からわざわざ来て炭なんか撒いてるの?
一円のお金にもならないのに。宗教か何かなの?」
と言われたこともありました。
 
 
この時点で、わたしも正直、
「絶対に炭がナラ枯れを食い止める」
とは確信できていませんでした。
 
ただ、 実際に土壌のpHを測ると、強酸性を示す箇所が多くあったので、
 「虫ではなく、問題は土壌にある」という意見には納得ができていました。
 
 
森がその答えを出してくれるには、とても時間がかかることは覚悟していました。
 
なので、結婚し、佐渡から神奈川県に住むようになってからも、
毎年10月、雪が降る前に「森に炭を撒く」という活動は続けました。
 
 
 
 
活動を始めて2年目には、佐渡で長く炭焼きをされている方が、
森に撒く用の炭を大量に無償で提供してくださるようになりました。
 
3年目には、樹木の幹の虫が入った穴から、樹液が流れていました。
これは、樹木の根が健全になったことで、水分や養分を吸い上げられるようになり、
樹液を出して虫を追い出すことができるようになった証拠です。
 
 
 
他にも、養分が行き渡らず小さくなっていた梢の先の葉が、
年々大きくしっかりとした葉になって来た様子を確認すると、
やっぱり炭の影響なんじゃないかと思えました。
 
また、京都からキノコの研究者の方がわざわざ来てくださり、
「菌根菌」という健全な樹木にはなくてはならない菌類を、
炭を撒いた土壌から見つけてくれたり。
 
そして、炭を撒き始めて9年目に、
驚くべき結果が目の前に現れたのです。
 

一人になっても続けていこうという覚悟

 
2017年9月、非常に強い勢力の台風が佐渡島を通過しました。
樹木が折れたり倒れたりしている話を聞いていましたが、
私たちが炭を撒いていた公園はどうなったのだろう?と、
心配しながら、確認しに行きました。
 
すると、
私たちが炭を撒いていたエリアの樹木は、1本も倒れていないにもかかわらず、
すぐ横の炭を撒いていないエリアでは、
幹の途中で折れたり、根こそぎ倒れている木が、何本もありました。
 
 
 
「えっ!こんなに違いがあるの?」
 
自分で炭を撒いておきながら、その違いに圧倒されました。
そして、心の底から、エネルギーが沸いてきました。
 
実はこの年に、炭を勧めてくれて一緒に活動していた、
群馬の宮下さんが急逝しました。
力強い協力者を失い、これからこの活動はどうしよう・・・
と落ち込んでいたところでした。
 
 
「やっぱり、炭を森に撒く活動は、何としても続けなくては!」
「来年はこの活動をもっと広げて、もっとたくさんの人に参加してもらおう!」
と決意しました。
 

「佐渡炭よいプロジェクト」始動

 
わたしには、以前から夢がありました。
 
お米どころの佐渡島で、
毎年秋に廃棄に困る大量の「籾殻」を
炭にして山に撒く、ということです。
 
佐渡での炭まき活動を、
さらにバージョンアップさせるために、
自ら籾殻で炭を作り、
この夢を実現させたい!
 
 
そこでさっそく、地元の方に相談し、
籾殻の運搬や、場所の提供、籾殻を炭にする方法の検討、など、
全面的に協力してもらって、試行錯誤が始まりました。
 
題して、「佐渡炭よいプロジェクト」
「炭は良い」と「住みよい」をかけたネーミングです。
 
 
この籾殻という「お困りモノ」を、
「炭」にして「お宝モノ」にして、
自然環境のため、あるいは農業にも使い、
島の中で循環させたい!
 
その一心で、協力者と共に、籾殻と格闘する日々。
昼夜関係なく火の番をしたり、
効率よい消火方法を検討しました。
 
 
人生でこれほど、頭と体を使って24時間、
1ヶ月近くフル回転したのは、初めてのことです。
 
炭作りの作業と共に、
「炭まきまつり」と題したイベントの企画と広報も
同時進行で進めていました。
 
これまでは、「きっと炭は、森をよみがえられてくれるはず」
という気持ちで、いつもの仲間と細々と続けていた活動でした。
 
でもこれからは、
「炭のチカラはすごいんだ!」ということを、
もっとたくさんの人に知らせたいし、知ってほしい。
 
そういう思いで、どんどん活動を広げたいと思いました。
 
台風を持ちこたえてしっかりと根を張った森の木々が、
私にエネルギーを与えてくれていたのでした。
 
 
「炭まきまつり」当日には、
参加者30名で、籾殻の炭450袋(900リットル)を、
新たなナラ枯れの場所に撒き、
その活動を、地元の新聞やテレビなど、マスコミの方にも取り上げていただき、
これまで出会えていなかった皆さんに、
炭のことを知っていただく機会が得られました。
 
 
今年は、作った籾殻の炭を、山に撒くだけではなく、
田んぼや果樹などの農業にも使っていただくよう、
地元の方々のご協力をいただいています。
 
 
 
 
これからも、炭による環境循環型の取り組みを、
続けていきたいと思っています。
 

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする