誰かの耳になるボランティア ~パソコン要約筆記者とは~

こんにちは、マキレイです。

みなさんは、聴覚に障がいを持つ人のサポートをする

「要約筆記者」という存在をご存知ですか?

聴覚障がい者へのサポートとしては「手話」が有名ですが、

その一方で、「要約筆記」の認知度は低いのが現状です。

私はたまたま、近所の自治会の掲示板に貼られていた

「パソコン要約筆記者養成講座」

というチラシが気になり、受講しました。

内容はよく分からなかったのですが、

私はもともとタイピングを早く打つのが得意だったので、

その技術がお役に立てるのではないか、と考えたのです。

現在は、自分が在住している市町村の臨時職員として、

月に数回、要約筆記者の活動をしています。

この記事では、

要約筆記とはどういうことをするのか、その意義と役割や、

要約筆記者になる方法、

要約筆記者になってみての感想などを書いていきます。

要約筆記とは

「要約筆記」は、

耳の聞こえが不自由な人の社会参加を支えるために、

会議やシンポジウムなどでの音声情報を、要約して文字に変える仕事です。

「手書き要約筆記」と「「パソコン要約筆記」があり、

手書きの場合は、OHPや紙、ミニホワイトボードなどに文字を書いて、

その場の内容を要約して伝えます。

パソコンの場合は、ノートパソコンを使って行います。

いずれの場合も、現場の状況や対象人数によって、

1人で行う場合と、2~4人一組で複数人で行う場合があります。

なぜ要約筆記が必要なのか

先天的に耳の聞こえない人は、「手話」を理解できる場合が多いのですが、

後天的に、特に成人になってから、難聴者(耳の聞こえが悪い人)や、

中途失聴者(後天的に完全に聞こえなくなった人)になった場合、

新たにゼロから手話を覚えるのは大変です。

そこで、シンポジウムや会議などで、映画の字幕のように、

その内容を文字として表示して、その内容を伝える役割をするのが、

要約筆記者です。

いわば、難聴者・失聴者の「耳の代り」となります。

特に、高齢化社会になった現在、

高齢で耳の聞こえが悪い人が増えるのは確実です。

ますます要約筆記者の役割が重要になります。

これだけAIが発達した現代において、

機械が自動で音声を文字化するのではなく、

なぜ人間が複数人でそういう作業をしなければならないのか・・・。

実は私は、要約筆記者になる前はそのように考えていました。

しかし、実際に作業をして痛感するのは、

やはり人間にしかできない仕事がある、ということです。

AIなどの機械的な発達で、話者の声を

100%確実に聞き分けて文字化できるようになったとします。

しかしその場合、不要な言葉(「あー」とか「えっと」などのケバと呼ばれる音)や、

まとまりのない話し言葉の文章が、大量に文字となって目の前に現れた時、

おそらく目でそれを追うだけで疲れてしまうでしょう。

その内容を瞬時に把握して、主旨をつかみ取って少ない文字数の要約とすることで、

耳の不自由な人に、その場の話の流れを理解してもらわなければなりません。

そういった技術は、まだ当分、AIには無理であるため、

人間の力でフォローし合うことが必要です。

要約筆記者になるには

各地方自治体によって仕組みは異なりますが、

自治体が開催する「要約筆記者養成講座」を受講し、

その資格を得て、派遣されて業務を行います。

私の場合は、居住している市町村の講習会を8回(週に1回2時間)受講した後、

都道府県が主催する講習会に全34回(週に1回2時間)受講した上で、

筆記試験と実技試験を経て、要約筆記者として認定されました。

ほぼ丸1年の講習期間でした。

講習会の受講資格については、

私が受講した「パソコン要約筆記」に関して言えば、

・ タッチタイピング(ブラインドタッチ)ができることと

・ LANケーブルの接続できるノートパソコン(Windows 7以上のOS)を持参できること

・ ウィルスソフトのオン・オフの切り替えや、テキストの保存等、初歩的なパソコンスキルを有していること

などが挙げられます。

講習内容は、

要約筆記として理解しやすく正確に伝える技術を学ぶと同時に、

聴覚障害に関する基礎知識や法制度、日本語の基礎知識など、

多種多様でした。

要約筆記者として認定されてからも、

所定の講習会や実技研修を定期的に受講する必要があります。

その上で、登録した市町村(居住地以外での登録も可能)の臨時職員として、

現場に派遣されています。

要約筆記者になってみての感想

私は、「タイピング速度が速いので、たぶん、すぐできるようになるだろう」と

高をくくっていたところがありました。

ところが、この要約筆記の世界と技術の奥深さに、とても驚きました。

次々と耳に入ってくる情報を、頭の中で要約して、

同時に文字化していく能力は当然ですが、

複数名で連携して業務を行う場合は、

パートナーとなる要約筆記者と呼吸を合わせて、

利用する聴覚障がい者が理解しやすく、読みやすい文章を、

作り上げていくための技術も、別途必要です。

また、派遣される現場も、会議やシンポジウム、ワークショップなど様々で、

話す人によっても内容もスピードも全く違うので、

臨機応変に対応することも求められますし、

いかに事前準備ができるかも大きなカギになります。

そして、講習期間に学んだ、聴覚障害に関する知識も、

とても興味深いものでした。

耳が健全に聞こえている人(健聴者)は、

全く聞こえない状態というものを体験することはできません。

たとえ外界からの音を完全に遮断できたとしても、

自分の声や体の音は、どうしても振動として鼓膜に伝わってしまうからです。

ここが、目を覆うことで体感できる視覚障害と決定的に違う点です。

そして、聴覚障害というのは、単に音の情報が得られないというだけではなく、

「コミュニケーション障害」を引き起こす、ということを改めて知りました。

1対1なら、口の動きや身振り手振り、筆談などで、会話することが可能だとしても、

複数名が同時多発的に会話をしている飲み会の席などでは、1人孤立してしまうのです。

また、耳が聞こえなくても、話すことはできるという障害者の場合は、

「耳が聞こえていない」という事実を理解してもらえず、

そこでもコミュニケーションの齟齬が起こります。

聴覚障害は、障害が一見しただけではわからないことが多いため、

その存在が社会から取り残されがちなのだ、という現状を知りました。

要約筆記者が様々な場所で活動することで、

そういった聴覚障害を持つ方の社会的孤立を、

少しでも減らすことができたら・・・と思いながら、

微力ながら活動をしています。

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